音楽

J(ジェイ)

meet

作家・高校教師の太田みのるです。
ワタクシ……、2000年代初頭に、相方と一緒にフォークデュオのストリートミュージシャンとして活動した時期がありました。

僕が作詞・作曲した「J」という歌を当時のMD(ミニディスク)音源から切り出しました。ちょっとだけバランスや音量などを整えていますが、あの頃の札幌狸小路(たぬきこうじ)の空気を一緒に味わっていただけると嬉しいです。

アイキャッチ画像の原画は、当時の僕が描いたイラストです。「J」のポストカード(歌詞カード)に使っていました。画用紙に割り箸ペンにインクをつけて下絵を描き、パソコンに取り込んで「花子フォトレタッチ(JUST SYSTEM)」で着色しました。

2026年4月に、この「J」という作品から、掌編小説を書きました。
音楽と小説で、作品の世界観を彩る。
小説を書く人として、そんな取り組みをし始めました。

なんとも、懐かしい。
そんな、ちょっとセピアでちょっとビターな思い出を共有してください。

掌編小説「J(ジェイ)」

 十月の午後、大通公園のベンチに、私は腰を下ろしていた。秋の日差しが柔らかいけれど、ふっと顔に当たる冷めた風は、秋の終わりを感じる。
 平日のこんな時間に、ここに座っているのは、何年ぶりだろうか。会社を辞めると言い出せないまま、有給を消化している、というのが、今日の言い訳だった。

 落ち葉の匂いが、湿った土の匂いと混ざって、鼻先をかすめる。
 私は行き交う人を、ぼんやりと眺めた。スーツ姿の男性がスマートフォンを片手に早足で通り過ぎていく。若い母親はゆっくりとベビーカーを押して、地下鉄の駅に向かっている。みんな、どこかへ向かっている。私だけが、どこにも向かっていない。

 ふと、ベンチの隣に、小さな影。

「おじさん、ここ、すわっていい?」

 五歳くらいの男の子だった。少し離れたところで、母親らしき女性が携帯電話で話をしていた。

「もちろん、いいよ」

 男の子は、両足をぶらぶらさせながら、空を見上げた。

『あるベンチと午後の風』(Midjourneyで生成)

「ぼくね、うちゅうひこうし になるんだ」

 思わず、笑みがこぼれた。

「そうか。すごいな」

「おじさんは?」

 答えに、詰まった。
 三十六歳の私。何者でもなかった。
 地元の大学を出て、ようやく内定をもらった会社で、十二年。数字に追われ、頭を下げ、気がつけば終電で帰る毎日。

 ああ、子どもの頃は、絵を描くのが好きだった。私は漫画家になりたかった。だけど、いつから言わなくなったのだろう。「現実を見ろ」と、誰かに言われたのか、自分で言い聞かせたのか……。もう、思い出せない。

「おじさんはね」

 私は、男の子の方を、向いた。

「漫画を描く人に、なりたかったんだ」

「なれなかったの?」

「うん。なれなかった」

 男の子は、しばらく考えてから、言った。

「きっと、なれるよ」

 秋風が、強く吹いた。
 落ち葉が舞い上がって、男の子の髪を軽く揺らした。

 母親が、迎えに来た。何度も頭を下げる彼女に、私は、首を振った。

——ベンチに、ひとり。
 なぜか、笑ってしまった。
 ポケットの中で、スマートフォンが震えていた。もう、見ることもない。

 私は、南1条のセントラルで、クロッキー帳と2Bの鉛筆を買って帰ろう、と思った。

 

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